「GAPS」が表現する、大人の社内ヒューマンドラマ
「GAPS」というタイトル、そして里つばめ先生の作品ということで、読む前からどこかヒリヒリした予感はあったんですよ、正直。リーマンものだし、多分、大人たちの「言えない」感情とか、仕事とプライベートの狭間で揺れる心の動きが描かれるんだろうなって。会社という閉鎖的だけど、実は色々な人間模様が渦巻く場所で、それぞれの立場の人間がどう接し、どう心の距離を縮めていくのか。その過程がね、結構リアルで胸に迫るんです。
で、実際に読んでみたら、まあ、私の期待をいい意味で裏切らないというか、むしろ想像以上に複雑な感情のGAPSにやられましたね。主人公が誰か、というのは言わないでおきますが(というか、群像劇っぽい雰囲気も感じたので、敢えて特定しない)、彼らの織りなす関係性が、とにかく深くて。まるで一つの小さな社会の縮図みたいで、派閥争いとまではいかないけれど、部署ごとの思惑や、先輩後輩のしがらみ、そういう人間関係の複雑さが、彼らの感情のGAPSをさらに深くしているように感じました。単純な恋愛物語ではない、その奥行きがこの作品の肝だな、と個人的には思っています。
特に印象的だったのは、部署の違う二人の関係性。一人は営業のエースで、もう一人は企画部のお堅いベテラン。最初はもう、水と油というか、仕事でしか接点がない感じだったんです。同じフロアにいるのに、壁一枚隔てたような距離感。互いに意識はしているものの、仕事上の関わり以外ではほとんど言葉を交わさない。そんな二人が、予期せぬトラブルや、共通の目標に向き合う中で、少しずつ、本当に少しずつ、心の扉を開いていく様子が、もうね、じれったいんだけど、めちゃくちゃ胸に響くんですよ。あの探り合うような視線とか、ちょっとした言葉の端々から滲み出る感情の揺れ動きが、読んでいてめちゃくちゃドキドキしました。
こういう社内ものって、どうしてもヒエラルキーとか、立場の違いからくる不器用な恋愛を描きがちじゃないですか。もちろん、「GAPS」にもそういう要素はあるんだけど、それだけじゃないんですよ。仕事へのプロ意識とか、男としてのプライドとか、そういう複雑な感情が絡み合って、なかなか素直になれない。でも、だからこそ、ふとした瞬間に見せる優しさだったり、相手を気遣う態度が、もうね、胸にグッとくるんですよね。正直、こういう関係性、現実にあったらめっちゃしんどいだろうなって思うけど、漫画だからこそ楽しめる危うさというか。
感情のレイヤーが深すぎるキャラ描写
里つばめ先生の作品って、いつもキャラクターの心の奥底を覗き見ているような感覚になるんですが、「GAPS」も例外じゃなかったですね。登場人物、みんな一筋縄ではいかない。例えば、一見クールで何でもこなす完璧主義者に見えるキャラがいるとして、彼もまた、内側に抱える葛藤や、過去の経験に囚われている部分がしっかりと描かれている。そこが単なる「かっこいいキャラ」で終わらない、人間臭さにつながっているんですよね。
個人的には、あの、いつも飄々としている上司のキャラクターがすごく気になりました。最初は「なんだこの人、ちゃらんぽらんだな」って思ってたんですよ。でも、物語が進むにつれて、彼が実は誰よりも周りをよく見ていて、必要な時には的確なアドバイスをする、みたいな場面が出てくるんです。そのギャップにね、思わず「うわ、やられた!」ってなりました。彼の言葉一つ一つが、すごく重みがあって、読んでるこっちも考えさせられる。悪くないどころか、結構いいキャラだったなと、今でも思いますね。
キャラクター間の「GAPS」だけじゃなくて、個々人の内面にもいくつもの「GAPS」が横たわっている。仕事モードの顔とプライベートの顔、理想と現実、本音と建前。例えば、仕事では完璧に見える彼が、プライベートではとんでもなく不器用だったり、逆に、いつもは控えめな彼女が、ある特定のことにはとんでもない情熱を燃やしたり。そういう人間らしい矛盾がね、読んでいてすごく魅力的でした。というか、そういう「裏の顔」が見える瞬間って、なぜか妙に惹かれるじゃないですか?あれと同じ感覚。それが本当に丁寧に描かれているから、感情移入しやすいし、彼らの選択や行動に納得感が持てる。というか、むしろ共感しすぎて、ちょっと苦しくなる場面もありましたね。あのシーンでの彼の選択は、個人的にはもう少し違う方向性もあるんじゃないかな、なんて思ったりもしましたけど、それもまたリアルな人間の葛藤ってことなんでしょう。
展開が「間」を語る。そして、その先の余白。
ストーリー展開に関して言うと、ものすごくドラマチックな大事件がバンバン起こるわけじゃないんです。もちろん、山場はあるんですけど、それよりも日常の中の小さな変化とか、登場人物たちの心の機微にフォーカスしている。だからこそ、読んでいる間は、その「間」を自分の中で咀嚼する時間がたっぷりあるというか。登場人物たちの表情の変化だったり、沈黙の意味だったり、行間から読み取れる感情がすごく多いんですよ。
この「間」の使い方がね、里つばめ先生、本当にうまい。例えば、二人が同じ空間にいるんだけど、会話がないシーン。その沈黙が、色々な感情を雄弁に語っているんです。悔しさとか、もどかしさとか、あるいはほんの少しの期待とか。こういう描写って、読み手の想像力を掻き立てるし、物語への没入感を高めてくれるんですよね。大きな事件が起こるわけじゃないから、展開が遅いと感じる人もいるかもしれません。実際、最初の数ページは「これ、どうなるんだろう?」ってちょっと構えちゃうというか、じっくり読み込むモードに入らないと、もしかしたら途中で手が止まっちゃう人もいるかも。でも、そのゆったりとした流れが、登場人物たちの心の動きを丁寧に追うためには必要不可欠なんだな、と途中で気づきましたね。というか、この「間」こそが、里つばめ先生の真骨頂というか、独特の空気感を醸し出していると思うんですよ。あの、カフェで一人、じっと窓の外を眺めているような、そんな静かで深遠な時間を与えてくれる。個人的には、そういう作品、大好きなんですけど、もしかしたらみんながみんなそうじゃないかもなあ、とは感じました。
そして、ラストシーン。個人的には、もう一歩踏み込んで欲しかったような、でもこの余白があるからこそ想像が膨らむような、なんとも言えない読後感でした。ハッピーエンド!バンザイ!って感じではないんですよ。ある意味、突き放されているような、でも同時に温かい光も見え隠れするような。読者に委ねられた余白が、また次を想像させるんですよね。ハッピーエンドで全て解決!というカタルシスを求める人には、もしかしたら物足りないと感じるかもしれません。でも、大人の関係性って、往々にしてそういうものじゃないですか。全てが丸く収まるわけじゃなくて、それでも前に進んでいく。そういうリアルな着地点が悪くない、というか、むしろ潔くて好きでした。蛇足な描写は一切なく、美しく締められていたと思います。
「GAPS」を体験するということ
この「GAPS」、ただのリーマンものBLとして片付けるのはもったいないというか、もっと深い人間ドラマとして味わってほしい作品だと感じましたね。仕事、人間関係、そして自分自身の内面。色々な「GAPS」と向き合う大人たちの姿は、読む人自身の心にも何かを問いかけてくるはずです。
もし、あなたが日常の喧騒の中で、ふと立ち止まって、人の心の複雑さや、ささやかな感情の動きに触れたいと思っているなら、この作品は間違いなく響くものがあるんじゃないかな。完璧じゃない人間が、完璧じゃない世界で、それでも必死に生きている姿。そこに、共感したり、時には反発したりしながら、読み終えたときにはきっと、自分の中にも新たな「GAPS」が見つかるかもしれません。ちょっと、重いテーマを扱っている場面もあるので、読む人の心境によっては刺さり方も違うだろうな、と感じました。
私としては、全体的に満足度の高い一冊だったな。ただ、前述した通り、展開の速さを求める人には、もしかしたら少し物足りなく感じる部分があるかもしれない。でも、その「間」があるからこそ、登場人物たちの感情をじっくりと追体験できる。というか、その「間」こそが、この作品の魅力の一つだと私は思うんですけどね。会社の休憩時間とか、週末の夜に、ゆっくりと大人な世界観に浸りたいときに、そういう読み方が一番合う作品だと思いますよ。
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