弐瓶勉が描く巨塔冒険譚!『タワーダンジョン』

少年コミック

弐瓶勉、ついにファンタジーに手を出す

『BLAME!』の無機質な構造物、『シドニアの騎士』の閉鎖空間──弐瓶勉の作品って、どこか「人間が住む場所じゃない」感じがあるじゃないですか。その弐瓶勉が本格的にファンタジーに挑戦したのが『タワーダンジョン』なんですが、正直最初にタイトル聞いたとき「ああ、なろう系の波に乗っちゃったのかな」って思いました。

でも読んでみたら全然違った。というか、やっぱりこの人のファンタジーは普通じゃない。

物語の舞台は荒廃した世界の中心にそびえ立つ巨大な「タワーダンジョン」。人類は最下層付近でなんとか生き延びている状態で、主人公のカイは謎の案内人・メロと共にタワーの上層を目指していく。目的は「世界の真理」とやらを見つけること。まあ、この辺の設定だけ聞くと王道っちゃ王道なんですよね。

「ダンジョン」という名の異形空間

ただ、弐瓶勉が描くダンジョンは、RPGでイメージするような石造りの迷宮とはまるで別物です。タワーの各階層は、それぞれが独自の生態系を持っていて、時には機械的な構造物が有機的な生命体と融合していたり、かつての文明の痕跡らしきものが錆びついて転がっていたり。

この「SF的なのかファンタジー的なのかよく分からん」感じが、弐瓶勉らしいというか。剣と魔法の世界を期待してる人は面食らうと思います。むしろ『BLAME!』の延長線上にファンタジー要素を無理やりねじ込んだような、そんな世界観。

個人的には、この中途半端さが逆に新鮮でした。完全にファンタジーに振り切らない、どこか冷たくて無機質な質感が残ってる。人間が生きるために作られた空間じゃなくて、何か別の目的で存在してる構造物に人間が勝手に入り込んでるような、そういう違和感がずっと漂ってるんですよね。

作画の密度、相変わらず頭おかしい

弐瓶勉の作画については今更語ることもないんですが、本作でもその緻密さは健在です。いや、健在どころか進化してる気さえする。

特に巨大な空間を表現するコマの迫力がすごい。タワーの内部構造を見開きで描くページなんて、どれだけ時間かけて描いてるんだって話ですよ。遠近法を使った奥行き表現、複雑に入り組んだ構造物の配置、光と影のコントラスト。一枚一枚がもう絵画レベル。

ただ正直、細かすぎて何が描いてあるのか分からないコマもあります。これは弐瓶作品あるあるなんですけど、情報量が多すぎて目が追いつかない。特に戦闘シーンは「今どっちが優勢なの?」って混乱することもしばしば。

でもそれが悪いかっていうと、微妙なんですよね。むしろその「よく分からん」感じが、異世界に迷い込んだような没入感を生んでる気もする。読者に親切な作画じゃないけど、その不親切さが作品の雰囲気に合ってるというか。

ストーリー展開、ちょっと不親切すぎない?

物語は基本的に「登る→謎に遭遇→戦闘または回避→また登る」の繰り返しなんですが、この謎の部分が結構曲者です。弐瓶勉って説明を極限まで削るタイプの作家じゃないですか。本作でもその傾向は変わってなくて、読者に対する情報開示がかなり渋い。

タワーの正体についても、世界の成り立ちについても、断片的な情報がポツポツ出てくるだけで、全体像がなかなか見えてこない。これを「深遠なミステリー」と捉えるか「単に説明不足」と捉えるかで、評価は分かれそうです。

私? 正直、両方だと思ってます。確かに謎が謎を呼ぶ展開は引き込まれるんですが、もうちょっとヒントくれてもいいんじゃないかなって場面もある。特に序盤は「で、結局何がどうなってるの?」って混乱しながら読み進めることになります。

ただ、この不親切さに耐えられる人なら、中盤以降の展開はかなり面白い。少しずつ明かされる世界の真実、タワーの本当の目的、人類の起源に関わる謎。パズルのピースが徐々にはまっていく感覚は、確かに読み応えがあります。

キャラクター、もうちょい感情出してくれ

主人公のカイは典型的な弐瓶勉主人公──つまり、あんまり喋らないし感情も表に出さないタイプです。目的に向かってひたすら前進する、そういうキャラクター。

案内人のメロも謎めいた存在で、こちらも多くを語らない。二人の会話シーンは最小限で、むしろ無言で進んでいく場面の方が多いくらい。

この静かな雰囲気が作品の世界観に合ってるのは確かなんですが、キャラクターへの感情移入という点ではちょっと弱いかもしれません。カイが何を考えてるのか、メロの本当の目的は何なのか、もう少し内面描写があってもよかったんじゃないかと。

道中で出会うサブキャラクターたちも、印象には残るんですが深く掘り下げられることは少ない。登場して、役割を果たして、退場する。そのドライな感じが弐瓶勉らしいといえばらしいんですけどね。

哲学的テーマ、理解できるかは別問題

本作には「存在とは何か」「真理とは何か」といった哲学的なテーマが含まれてる──らしいです。正直、私にはそこまで深く読み取れませんでした。

確かに物語の根底には、世界の成り立ちや人類の存在意義についての問いかけがある。タワーという存在自体が、そうした問いの象徴になってるのかもしれない。でも、それが明確なメッセージとして伝わってくるかというと、うーん、微妙。

というのも、前述の通り説明が少ないので、哲学的解釈をするための材料自体が不足してるんですよね。読者それぞれが勝手に解釈してくださいっていうスタンスなのかもしれませんが、もう少しヒントが欲しかった。

ただ、こういう「よく分からんけど何か深そう」な雰囲気が好きな人もいるわけで。明確な答えを出さないことで、逆に想像の余地を残してるとも言えます。考察好きな人には向いてるかも。

結局、誰向けの作品なのか

『タワーダンジョン』は間違いなく万人向けではありません。弐瓶勉の過去作を読んで「面白い」と思えた人なら楽しめると思いますが、初見の人にはハードルが高い。

説明不足な展開、感情表現の少ないキャラクター、複雑すぎる作画。これらを「味」として受け入れられるかどうかが分かれ目です。あと、未完結作品なので(おそらく)、結末を知りたい人は覚悟が必要かも。弐瓶勉、連載ペース遅いんで。

逆に言えば、従来のファンタジー作品に飽きてる人、巨大建造物フェチの人、説明されなくても自分で考察するのが好きな人には刺さると思います。あと単純に、圧倒的な作画を眺めてるだけで満足できる人。

私自身の評価としては、「悪くない」です。最高傑作かと言われると首を傾げますが、弐瓶勉の新境地として興味深い作品ではある。ファンタジーというジャンルに弐瓶勉のエッセンスを注入した実験作、そんな感じ。

成功してるかどうかは、まだ判断できません。物語が完結してみないと分からない部分も多いし。ただ、この独特な世界観を構築できる作家は他にいないので、その一点だけでも読む価値はあるかなと。

万人にはおすすめしませんが、気になった人は試しに読んでみても損はしないと思います。合わなかったら途中で離脱すればいいだけですし。ただ、1巻だけで判断するのはやめた方がいいかも。弐瓶作品って、序盤は特に不親切なんで。

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